アコーディオンの演奏テクニック
蛇腹で音に表情をつけ、指でつなぎ方を変え、左手で伴奏を組み立てる。アコーディオンの演奏で試したい奏法を、短い練習例と図で紹介します。
主に、押し引きで同じ音が出るアコースティック・アコーディオンを対象にしています。左手の章は標準的なストラデラ式を扱います。小型楽器では一部のボタンやレジスターがない場合があります。
以下の短い練習例は、このページ用に作成したものです。

蛇腹の動かし方から左手の伴奏まで、アコーディオンの演奏をいっしょに練習しよう!
1. 蛇腹による強弱とフレーズ
音量の強弱は、主に蛇腹で空気の圧力を調整して作ります。鍵盤やボタンを押したままでも、音を徐々に大きくしたり、小さくしたりできます。右手と左手は同じ蛇腹を使うため、圧力の変化は両方の響きに関わります。 [4]
フレーズは、旋律のひとまとまりです。どの音へ向かい、どこで収めるかを決めて、強弱の流れをつけます。蛇腹の押し引きを切り替える場所は、休符やフレーズの切れ目を目安に選びましょう。 [5]
試してみる
右手の1音を4拍伸ばし、2拍かけて少し大きく、残りの2拍で小さくします。次に短い旋律で試し、音の途中に不意な切れ目が入らないか聴きます。
同じ鍵盤を押さえたまま蛇腹を動かし、弱く→強く→弱くと変化させる例です。拡大図では、押さえているCの鍵盤に色がつきます。色が続く間の強弱の変化に注目してください。
女性奏者の全体像と、操作する部分の拡大図で動きを示します。AIで制作したイラストを動かしたもので、実演の撮影映像ではありません。画面左が右手(鍵盤)、画面右が左手(ベース)です。
2. レガート・スタッカート・アクセント
音のつながり方や切れ方、音の出だしを弾き分けます。まず蛇腹の圧力を安定させ、指を押す・離すタイミングによる違いを確かめます。
- レガート
- 前の音から次の音へ、隙間なく滑らかにつなぎます。指の交替と空気の流れをそろえ、不要な音の重なりを避けます。
- スタッカート
- 鍵盤やボタンを早めに離し、音の間に短い空白を作ります。短さと強さは別の要素なので、弱い音でも試せます。
- アクセント
- 狙った音の出だしに蛇腹の圧力を短く加え、音を際立たせます。左右で同時に鳴っている音にも影響するため、伴奏の長さと合わせて調整します。
試してみる
ド・レ・ミ・ファを同じ速さで、滑らかに、短く、最初の音にアクセントをつけて弾き比べます。アクセントをつけても次の音へ急がないようにします。
C・D・E・Fを、レガート、スタッカート、最初の音にアクセントをつける順で示します。押している鍵盤だけに色がつき、離すと元の色に戻ります。最後のアクセントでは、Cが点灯すると同時に蛇腹を短く動かします。蛇腹の拡大図に出る金色の矢印と「>」に注目してください。
3. 左手の低音と和音
ストラデラ式では、低音を出す単音ボタンと、複数の音をまとめて鳴らす和音ボタンを使います。低音と和音を交互に弾く伴奏から、同時に押して新しい和音を作る奏法へ進めます。
ベースは五度圏の順に並ぶ
Cの隣はG、その隣はD。ストラデラ式の基本ベースは、音名を完全5度ずつたどる「五度圏」の順に並びます。Cから見れば、Fが片側、Gが反対側の隣です。この3列に、ハ長調でよく使うF・C・Gの和音がまとまっています。 [1]
押す形を保ったまま移調する
移調は、音どうしの間隔を保ち、曲全体を別の調へ移すことです。左手では、Cを起点にした押し方をGの列へ1列ずらすと、和音の進行もC→F→G→CからG→C→D→Gへ移せます。単音と和音の種類を保って、使うボタンをすべて同じ列数だけ動かすのがポイントです。 [2]
左の五度圏のF・C・Gを、右の基本ベース(B)で探してみましょう。同じ順序で隣り合っています。色は基本ベースと長三和音(M)のIV・I・Vを示します。調を変えると、位置関係を保ったまま使う列が移ります。
↻ 時計回りに完全5度
図:Circle of fifths deluxe 4 · Just plain Bill · CC BY-SA 3.0
原図は変更せず、IV・I・Vの強調を重ねています。
五度圏の読み方
外側の大文字(Major)は長調、内側の小文字(Minor)は短調です。同じ方向に並ぶCとaなら、ハ長調とイ短調。同じ調号を使う「平行調」の関係です。
Cから時計回りにG、Dへ進むと♯が1つずつ増え、反時計回りにF、B♭へ進むと♭が1つずつ増えます。隣の長調とは、調号が1つ違います。
内側の小文字は短調を表し、対位ベースの音名ではありません。たとえばC長調の平行調はA短調ですが、C列の対位ベースはEです。同じ列の短三和音はCmになります。
20列 × 6段。図の上へ進む順序が、五度圏の時計回りに対応します。
- 減七 dim
- 属七 7
- 短三和音 m
- 長三和音 M
- 基本ベース B
- 対位ベース CB
標準的な「単音2段+和音4段」の120ベースです。実物の傾きや間隔は簡略化しています。端の列では異名同音が別の位置に現れます。7・dimの構成音や配列には楽器による違いがあります。 120ベースの配列資料
元の位置:C列を起点にする
同じ順番で和音を弾く:I → IV → V → I
C → F → G → C- IV:主音の4度上の和音
- I:その調の中心となる和音
- V:主音の5度上の和音
「単音+既成和音」も同じ形で移せる
Dm7の「B♭列の対位ベースD+隣のF和音」を、両方とも図の右へ1列ずらしてみましょう。「F列の対位ベースA+隣のC和音」になり、Am7の構成音を作れます。図の①と②の位置関係は同じです。
| 列の目印 | B♭ | F |
|---|---|---|
| 対位ベース | ① D | A |
| 基本ベース | B♭ | F |
| 長三和音 M | B♭ | ② F |
D · F · A · C
両方を右へ1列 →
| 列の目印 | F | C |
|---|---|---|
| 対位ベース | ① A | E |
| 基本ベース | F | C |
| 長三和音 M | F | ② C |
A · C · E · G
五度圏の時計回りは、120ベースの全体図では上、下の組み合わせ図では右に対応します。図は音名と位置関係を示す模式図です。
ここでいう「5度」は音名の関係です。ストラデラ式の実音は一定の音域で折り返すため、隣のボタンが毎回そのまま5度高く鳴るわけではありません。F♯とG♭は異名同音です。 [3]
同じ形を使えるのは、必要なボタンがある範囲です。楽器の端や省略された列に注意してください。曲全体を移調するときは右手も移調します。右手の運指は、ピアノ鍵盤式かボタン式かによって変わります。
単音と既成和音を重ねる
既成和音は、1つのボタンで鳴る決まった和音です。単音を加えるときは、和音名だけでなく、含まれる音とベースに置く音を確認します。Mは長三和音、mは短三和音。CM7のM7は長7度を含む和音を表します。 [1]
C① 単音+Em② 既成和音=CM7
- 和音ボタンの構成音
- E · G · B
- 合わせた構成音
- C · E · G · B
- ① 基本ベース · 列の目印
- C → C
- ② 短三和音 m · 列の目印
- E → Em
- 列の間隔
- 4
C+EmでCM7(Cmaj7)。基本ベースのCからEmまでは4列分離れています。対位ベースのCはA♭列にあるため、この図ではさらに遠くなります。無理に手を広げず、必要なら右手との分担を考えます。
配列の一部を平らに並べた模式図です。上側が蛇腹側、右へ進むと基本ベースの音名は完全5度の順に並びます。実物の斜めの並びやボタン間隔は再現していません。7・dimの段は省略しています。横にスクロールできます。
| 列の目印 | A♭ | E♭ | B♭ | F | C | G | D | A | E |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 対位ベース | C | G | D | A | E | B | F♯ | C♯ | G♯ |
| 基本ベース | A♭ | E♭ | B♭ | F | ① C | G | D | A | E |
| 長三和音 M | A♭ | E♭ | B♭ | F | C | G | D | A | E |
| 短三和音 m | A♭m | E♭m | B♭m | Fm | Cm | Gm | Dm | Am | ② Em |
① 単音② 既成和音
①単音と②和音を同時に押します。数字は指番号ではありません。 列の間隔は移動の目安です。指の届きやすさは手の大きさや楽器によって変わります。
対位ベースで移動を小さくする
蛇腹に最も近い単音列が対位ベースです。同じ列の基本ベースより長3度上の音名が並び、C列ならE、F列ならA、B♭列ならDになります。基本ベースと同じ音名でも、押す場所を選べます。 [2]
C→D→Eを、基本ベースC→B♭列の対位ベースD→C列の対位ベースEでゆっくり弾きます。最初は和音を加えず、移動を覚えましょう。
ベースと和音の長さを弾き分ける
同じ組み合わせでも、同時に鳴らすか、交互に鳴らすかで伴奏は変わります。次の例は、このページ用の短い練習です。
- 交互ベース:4拍をC単音→C和音→G単音→C和音の順に。根音と5度のベースを交替させます。
- 持続低音:C単音を保ち、C和音だけを短く押して離します。ベースと和音の長さを分けて聴きます。
- 和音を短く切る:蛇腹の流れを保ち、和音ボタンを早めに離します。蛇腹を止めると右手の音も切れるため、右手を伸ばしたまま試すと違いが分かります。
左手でCの単音→Cメジャーの和音→Gの単音→Cメジャーの和音と押します。拡大図では、押しているボタンだけ色が変わります。
拡大図は、単音と長三和音のボタンを抜き出した模式図です。実物の傾きやボタンの間隔は省略しています。
構成音と実際の響きを確かめる
図に出るC・E・G・Bなどは、オクターブの違いと重複をまとめた音名です。「単音」ボタンでも、レジスターによっては複数のオクターブが同時に鳴ります。和音の音域や転回形も楽器とレジスターで変わるため、この図から実際の音高までは決まりません。 [3]
7・dimのボタンでは、省略される音や配列にも違いがあります。楽器の仕様を確認し、単音、和音、同時押しの順に聴き比べてください。左右で同じ音を重ねるときも、音域と音量のバランスを耳で確かめます。
Dm7から試してみる
- B♭列の対位ベースDと、Fの長三和音を別々に鳴らします。
- 2つを同時に押し、D・F・A・Cの響きを聴きます。
- Dを伸ばしたままF和音を短く刻み、両方を短く弾く場合と比べます。
- Am7へ移り、F列の対位ベースAとC和音で同じ動きを試します。
4. レジスターによる音色変更
レジスターは、鳴らすリードの組み合わせを切り替えるスイッチです。同じ鍵盤を弾いても、音域や音の厚みが変わります。右手側のリードは、よくL・M・Hで表されます。 [6]
- L · 16′
- 低音域。Mより1オクターブ低いリード。
- M · 8′
- 中音域。基準となる高さのリード。
- H · 4′
- 高音域。Mより1オクターブ高いリード。
LMは低音域と中音域、MMは中音域のリード2組を重ねます。MMのうなりの強さは調律によって変わります。スイッチの名称・記号・組み合わせは楽器ごとに異なるため、表示と説明書を確かめてください。
試してみる
同じ短い旋律をM、LM、MMなど、手元の楽器で選べる音色で弾き比べます。伴奏も加え、旋律の聞こえ方を確認します。切り替えは、まず休符やフレーズの区切りで練習します。
同じ短い旋律の合間に右手を鍵盤からスイッチへ動かし、M→LM→MMと切り替えます。表示されるリードの組み合わせも変わります。
無音のため音色の聴き比べはできません。示しているのはスイッチ操作とリードの選択です。
5. ベローズ・シェイク
鍵盤やボタンを押さえたまま、蛇腹の開閉を細かく交互に繰り返し、音を連続して刻む奏法です。指で同じ音を連打する場合とは、音の出だしや切れ方が変わります。 [4]
試してみる
まず右手の1音を押さえ、ゆっくり「開く→閉じる」を短く繰り返します。両方向の音の長さと強さをそろえ、数回ずつ区切って練習します。動きが安定してから少しずつ速くします。
楽器を安定させ、肩や手首に力を入れすぎず、小さな動きで試します。左手の音を押さえたままなら、その音も刻まれます。ここでは押し引きで同じ音が出る楽器を想定しています。
右手で同じ鍵盤を押さえ、左腕で小さな開閉を繰り返します。拡大図では蛇腹と左手に注目し、矢印が切り替わるタイミングで開く・閉じる動きを確認してください。
開閉の仕組みを見やすくした図解です。実際の動きの幅や速さは、楽器と奏者によって変わります。
参考にした実演・解説
6. 特殊な奏法:蛇腹や本体を叩く
蛇腹の広い面を手のひらなどで叩き、打楽器のような音を加える奏法があります。本体の硬い外装を指や手のひらで叩く奏法もあり、場所や手の当て方によって響きが変わります。鍵盤を弾かずにリズムを刻んだり、フレーズの合間に打音を入れたりできます。 [7] [8]
叩く場所や力加減は、楽器の材質・構造・状態によって異なります。経験のある奏者や修理技術者に確かめ、軽い接触から試してください。この練習では、爪や硬い道具を使わず、蛇腹の角や金具に力を集中させないようにします。
試してみる
楽器を安定させ、蛇腹を少し開いて4拍を数えます。鍵盤やボタンを押さず、確認した蛇腹の面を手のひらで2拍目・4拍目に軽く叩いて離し、打音で拍の流れを作ってみましょう。
少し開いた蛇腹の広い面に右手を伸ばし、2拍目・4拍目に手のひらで軽く叩く例です。拡大図では、手が触れて離れる動きと、接触時の印を確認できます。
動きと接触位置を示す図解です。適した場所や力加減は楽器によって異なります。無音のため打音は聞こえません。
参考資料
- Accordion Chords — 120 Bass Accordion Chart
単音・対位ベースと既成和音の組み合わせ、ボタン配列。
- George Whitfield — Accordion Bass Scales: C Major
対位ベースを使った音階とベースライン。
- Donald Balestrieri — Registers of the Standard Stradella Keyboard
レジスターによる音域、転回形、オクターブ重複の違い。
- Gorka Hermosa — Accordion Technique Notebook (PDF)
蛇腹の強弱・切り替え・ベローズ・シェイク。本文の6〜10ページ。
- Shelia Lee — Bellow Technique: Phrasing
指の操作と蛇腹を組み合わせたレガート、スタッカート、フレーズの練習。
- Liberty Bellows — General Accordion Questions
L・M・Hのリード構成と、音色・うなりの違い。
- Felix Kroll — The Accordion: Composers–Guide (PDF)
蛇腹を叩く・なでる奏法と、本体の木製部分を指や手のひらで叩く奏法。「Percussion」の節(PDFの18ページ目)。
- Luca Piovesan — ACCORDION4COMPOSERS (PDF)
半開きの蛇腹を叩く音、蛇腹の太鼓のような打音、外装の打音を区別して紹介。第7章「Noises」(PDFの31ページ目)。